要 この記事の要点
- 延納制度は相続税法第38条に基づく、相続税を一括で納付できない場合に分割払いを認める制度
- 要件:①納付すべき相続税額が10万円超、②金銭納付困難な事由、③担保の提供(延納税額100万円以下かつ延納期間3年以下の場合は不要)、④納期限までの申請書提出
- 延納期間は原則5年以内。不動産等の割合に応じて最大20年まで延長可能(不動産等の割合75%以上で最大20年)
- 延納期間中は利子税が発生(年率は財産の種類で異なり、令和7年度の特例割合はおおむね年0.1〜0.7%程度)。物納や金銭納付への変更も可能
相続税は原則として、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に金銭で一括納付しなければなりません。しかし、相続財産の大半が不動産で現金が少ない場合など、一括納付が困難なケースも少なくありません。
こうした場合の救済策として用意されているのが「延納制度」です。本記事では、相続税法第38条に基づく延納制度について、要件・期間・利子税・手続きを西東京市の専門家がわかりやすく解説します。
相続税の延納制度とは(相続税法第38条)
延納制度とは、相続税を金銭で一括納付することが困難な場合に、税務署長の許可を受けて年賦により分割で納付できる制度です。相続税法第38条第1項にその根拠が定められています。
延納は単なる「分割払い」ではなく、納期限までに延納申請書を提出し、税務署長の許可を受ける必要があります。許可されると延納期間中は利子税を支払うことになりますが、銀行融資などと比べて低利で済むケースも多く、納税資金対策の重要な選択肢となります。
相続税は分割払いできる?延納までの判断フローチャート
「相続税を分割払いにできませんか」というご相談を非常に多くいただきます。答えは「条件を満たせば可能。ただし、クレジットカードの分割払いのように自由に選べる制度ではない」です。
相続税の納付方法には、①金銭一括納付 → ②延納(分割払い) → ③物納(モノで納める)という法律で決められた優先順位があります。延納は「一括で払えない場合」に、物納は「延納でも払えない場合」にしか認められません(相続税法第41条第1項)。順番を飛ばして「不動産で納めたい」と申し出ることはできない仕組みです。
ご自身がどの段階にあるのか、次のステップで確認してください。
→ 一括で払えない … STEP 2へ
・相続した不動産や有価証券の売却(売却益には譲渡所得税がかかる点に留意)
・受け取った生命保険金の充当
・金融機関からの借入れ(納税資金ローン)
→ いずれも難しい/不動産を手放したくない … STEP 3へ
あわせて、毎年の分納税額を払い続けられる資力(返済原資)があるかが実質的な関門になります。賃料収入や給与収入などの安定収入があるかどうかが判断の分かれ目です。
→ 要件を満たす … 延納を申請/延納でも納付が困難 … STEP 4へ
詳しくは相続税の物納制度をご覧ください。
注意点として、納期限までに延納申請書を提出しないまま納付が遅れると、延納ではなく延滞税の対象になります。延滞税は利子税よりはるかに高率(納期限の翌日から2ヶ月経過後は年8.7%程度・令和7年度水準の目安)です。「払えないからとりあえず放置する」が最も不利な選択であることは、強調しておきたい点です。
延納が認められる4つの要件
延納の許可を受けるためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。
- ①納付すべき相続税額が10万円を超えること
- ②金銭で納付することを困難とする事由があること(納期限において、納付すべき税額を一時に金銭で納付することが困難な金額の範囲内であること)
- ③担保を提供すること(ただし、相続税法第38条第4項により、延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下の場合は担保の提供が不要です)
- ④納期限まで(または納付すべき日まで)に延納申請書および担保提供関係書類を提出すること
「金銭納付困難な事由」は、相続した現預金だけでなく、相続人固有の現預金や近い将来確実に支払われる給与等も考慮して判断されます。
延納期間と利子税
延納期間の決め方(不動産等の割合別)
延納期間は原則として5年以内ですが、相続財産に占める不動産等の割合に応じて最長20年まで延長されます。延納期間と利子税率は、相続税法第52条と附則に基づき、不動産等の割合区分ごとに次のように定められています。
- 不動産等の割合が75%以上:不動産等に係る延納相続税額は最長20年
- 不動産等の割合が50%以上75%未満:不動産等に係る延納相続税額は最長15年
- 不動産等の割合が50%未満:原則5年(一般動産等のみの延納)
「不動産等」には、不動産・不動産の上に存する権利・立木・事業用減価償却資産・特定同族会社の非上場株式などが含まれます。
利子税の計算
延納期間中は、納期限の翌日から完納の日まで、各分納税額に応じた利子税を支払います。利子税の本則税率は財産種類により年3.6%〜年6.0%と定められていますが、後述の「特例基準割合」による軽減により、実際の負担はかなり低くなります。
特例基準割合による軽減
租税特別措置法第93条に基づき、各年の特例基準割合(令和7年は年0.9%)が年7.3%に満たない場合、利子税は本則税率に特例基準割合を乗じて算出されます。これにより、実際の利子税率は財産区分によって異なりますが、令和7年度はおおむね年0.1%〜年0.7%程度となります(区分ごとの一覧は後述の「延納の利子税シミュレーション」をご覧ください)。特例基準割合は毎年見直されるため、過去には特例割合が年1%を超える区分・年度もありました。最新の利率は国税庁の公表値をご確認ください。
延納の利子税シミュレーション
延納を検討する際に最も気になるのが「結局いくら上乗せされるのか」という点でしょう。ここでは、不動産等の割合別の利子税率を一覧で示したうえで、実際の金額を試算します。
不動産等の割合別・延納期間と利子税率の一覧
利子税率は「本則の税率」がそのまま適用されるわけではなく、特例基準割合により大幅に軽減された「特例割合」が使われます。
| 不動産等の割合 | 区分 | 最長期間 | 本則 | 特例割合(令和7年度の目安) |
|---|---|---|---|---|
| 75%以上 | 不動産等に係る延納税額 | 20年 | 年3.6% | 年0.4% |
| 動産等に係る延納税額 | 10年 | 年5.4% | 年0.6% | |
| 森林計画立木に係る延納税額(立木の割合20%以上の場合) | 20年 | 年1.2% | 年0.1% | |
| 50%以上 75%未満 | 不動産等に係る延納税額 | 15年 | 年3.6% | 年0.4% |
| 動産等に係る延納税額 | 10年 | 年5.4% | 年0.6% | |
| 50%未満 | 一般の延納税額 | 5年 | 年6.0% | 年0.7% |
| 立木に係る延納税額 | 5年 | 年4.8% | 年0.5% |
※特例割合は「本則の税率 × 延納特例基準割合 ÷ 7.3%(0.1%未満切捨て)」で算出され、上表は延納特例基準割合を年0.9%(令和7年)として計算した目安です。特例基準割合は各年の銀行の貸出約定平均金利をもとに毎年見直されるため、年度によって変動します(過去には特例割合が年1%を超える区分もありました)。実際に適用される割合は、必ず国税庁の公表値または税理士にご確認ください。
1,000万円を10年間延納した場合の概算
相続財産に占める不動産等の割合が75%以上で、不動産等に係る延納相続税額1,000万円を10年(年1回払い)で延納するケースを試算します。利子税率は年0.4%(令和7年度水準)とします。
相続税の延納は元金均等です。毎年の分納税額は一定で、利子税はその時点でまだ納めていない延納税額(残高)に対してのみかかります。したがって、年を追うごとに利子税は軽くなっていきます。
| 回数 | 分納税額 | 未納残高 | 利子税(年0.4%) | その回の納付額 |
|---|---|---|---|---|
| 1回目 | 100万円 | 1,000万円 | 40,000円 | 1,040,000円 |
| 2回目 | 100万円 | 900万円 | 36,000円 | 1,036,000円 |
| 5回目 | 100万円 | 600万円 | 24,000円 | 1,024,000円 |
| 10回目 | 100万円 | 100万円 | 4,000円 | 1,004,000円 |
| 10年間の合計 | 1,000万円 | - | 約22万円 | 約1,022万円 |
10年かけて分割払いをしても、上乗せされる利子税は合計で約22万円(元本の約2.2%)にとどまります。仮に本則の年3.6%がそのまま適用されれば利子税は約198万円になる計算ですから、特例基準割合による軽減の効果は非常に大きいといえます。金融機関から1,000万円を10年で借りる場合の利息と比べても、有利になるケースが多いでしょう。
1,000万円を5年間延納した場合(不動産等の割合50%未満)
相続財産に占める不動産等の割合が50%未満の場合、延納期間は原則5年、利子税率は年0.7%(令和7年度水準)となります。
- 毎年の分納税額:1,000万円 ÷ 5年 = 200万円
- 利子税の合計:年0.7% ×(1,000万+800万+600万+400万+200万)= 約21万円
- 納付総額:約1,021万円
期間が短い分、1回あたりの負担(1年目は約207万円)は重くなりますが、利子税の総額は10年延納とほぼ同水準です。「長く借りるほど利子税が増える」という単純な話ではなく、率の高い区分を長く引っ張ると総額が膨らむという関係にある点を押さえておいてください。
※上記はいずれも仕組みを理解いただくための概算例です。実際の利子税は分納期限までの実日数(日割り)で計算され、各年の特例基準割合の改定も反映されます。また、不動産等と動産等で異なる税率・期間が適用されるため、実際の納付計画では区分ごとの計算が必要です。正確な金額は税理士による試算をご依頼ください。
延納の申請手続き
申請書類
延納の許可を受けるためには、以下の書類を被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署長に提出します。
- 相続税延納申請書
- 金銭納付を困難とする理由書
- 担保提供関係書類(不動産抵当権設定承諾書、登記事項証明書、固定資産税評価証明書 など)
- 延納申請書別紙(不動産等の財産の明細書、延納税額計算書 など)
申請期限
延納申請書は、相続税の納期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに提出する必要があります。期限を1日でも過ぎると延納が認められませんのでご注意ください。
審査期間
申請書の提出後、税務署において審査が行われ、おおむね3ヶ月以内に許可または却下の通知が発せられます。担保財産の調査などに時間を要する場合は、最長6ヶ月まで審査期間が延長されることがあります(相続税法第39条)。
担保の種類と要件
延納の担保として認められる財産は、相続税法第38条第4項および国税通則法第50条に列挙されています。
- 国債・地方債
- 社債・株式(税務署長が確実と認めるもの)
- 土地・建物(抵当権の設定)
- 立木・船舶・機械装置等で保険に付したもの
- 税務署長が確実と認める保証人の保証
担保財産の評価額は、原則として延納税額および利子税の合計額を上回る必要があります。相続した不動産を担保に提供するケースが多く、その場合は遺産分割協議の完了が前提となります。
延納から物納への変更(特定物納)
延納の許可を受けた後、経済情勢の悪化などで延納による納付が困難となった場合には、相続税法第48条の2に基づき、申告期限から10年以内に限り、延納税額の全部または一部について物納への変更(特定物納)が認められています。
特定物納の収納価額は、原則として物納申請時の価額(時価)とされる点が、当初物納(相続税評価額が基準)と異なります。
延納と物納どちらを選ぶべきか
延納と物納は、いずれも金銭一括納付が困難な場合の特例ですが、選択にあたっては以下の比較が参考になります。
- 延納が向いているケース:近い将来に売却予定の不動産がある/賃料収入など返済原資が見込める/不動産を手放したくない
- 物納が向いているケース:不動産が事実上売却困難/延納でも返済原資が確保できない/相続税評価額が時価より高い不動産がある
延納と物納は併用も可能で、納付すべき税額のうち一部を延納、残りを物納とすることもできます。
当センターでの対応事例
西東京市にお住まいのIさんは、ご尊父から相続した自宅と賃貸アパートにより相続税額が約3,800万円となり、預貯金だけでは納付できないとご相談に来られました。当センターでは賃貸アパートの賃料を返済原資として活用する20年延納のスキームをご提案。担保として相続した不動産2筆に抵当権を設定し、納期限までに延納申請を完了させました。賃料収入の中から無理なく分納できる体制を整え、現在も滞りなく納付を続けておられます。
東久留米市・清瀬市・新座市など近隣エリアでも同様のご相談が増えています。
まとめ
相続税の延納は、相続税法第38条に基づく重要な納税猶予制度です。最長20年の分割が認められ、利子税も低利に抑えられている一方、担保提供や厳格な要件審査があり、納期限までの申請が必須です。
延納と物納のどちらを選ぶか、あるいは併用するかは、相続財産の構成や将来の資金繰りによって最適解が変わります。相続税の物納制度もあわせてご確認ください。
当センターでは無料相談で延納・物納のシミュレーションをお受けしております。お気軽にご相談ください。