相続税2026年5月21日最終更新: 2026.07.10

この記事の要点

  • 事業承継税制は、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)に基づき、非上場株式の相続税・贈与税の納税を猶予する制度(租税特別措置法第70条の7の2、第70条の7の4等)
  • 一般措置(恒久制度)と特例措置(時限措置:2018年4月〜2027年12月31日まで)の2種類がある。特例措置は要件が緩く、納税猶予割合が100%(一般措置は80%)
  • 特例措置の活用には「特例承継計画」を都道府県知事に提出する必要がある(提出期限は法令の最新動向を要確認)
  • 猶予税額は事業継続・株式保有等の要件を5年間(特例期間)満たせば猶予継続。途中で要件違反すると利子税付きで全額納付

中小企業の後継者への事業承継において、自社株式(非上場株式)の評価額が高額となり、相続税・贈与税の負担が事業継続の障害となるケースが多く発生しています。この負担を軽減する制度が「事業承継税制」です。

この記事では、事業承継税制の一般措置と特例措置の違い、適用要件、手続きの流れ、注意点について、清瀬市の相続専門家が詳しく解説します。

事業承継税制とは(経営承継円滑化法)

事業承継税制は、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」に基づき、後継者が先代経営者から非上場株式を相続または贈与により取得した場合に、その株式に係る相続税・贈与税の納税を猶予・免除する制度です。

根拠条文は租税特別措置法第70条の7(贈与税)、第70条の7の2(相続税)、特例措置として第70条の7の5、第70条の7の6等に定められています。

一般措置と特例措置の違い(比較表)

事業承継税制には「一般措置」(恒久制度)と「特例措置」(時限措置)の2種類があります。主要な違いは以下のとおりです。

猶予割合:80% vs 100%

  • 一般措置:相続税の80%(贈与税は100%)
  • 特例措置:相続税・贈与税ともに100%納税猶予

対象株式:発行済議決権株式の2/3まで vs 全株式

  • 一般措置:発行済議決権株式総数の3分の2まで
  • 特例措置:取得した全株式が対象

後継者の数:1人 vs 最大3人

  • 一般措置:1人の後継者のみ
  • 特例措置:最大3人まで(議決権10%以上保有等の要件あり)

雇用維持要件:5年平均8割 vs 弾力化

  • 一般措置:承継後5年間の平均で雇用の8割を維持(未達の場合、猶予打切り)
  • 特例措置:8割を維持できなくても、理由を都道府県に報告すれば猶予継続

特例措置の活用期限

特例措置の対象となる贈与・相続は、2018年1月1日から2027年12月31日までに行われたものに限られます。それ以後の贈与・相続は一般措置のみの適用となります。

特例措置を利用するには、原則として事前に「特例承継計画」を都道府県知事に提出する必要があります。提出期限は税制改正で延長されている経緯がありますので、活用を検討する際は最新の改正動向を税理士・経済産業省(中小企業庁)の公表資料で必ず確認してください。

適用要件

会社の要件(中小企業基本法上の中小企業)

対象会社は、中小企業基本法第2条に定める中小企業者である必要があります。業種により資本金・従業員数の基準が異なります(例:製造業は資本金3億円以下または従業員300人以下)。また、上場会社・風俗営業会社・資産管理会社(一定の例外を除く)は対象外です。

先代経営者の要件

  • 会社の代表者であった(または代表者である)こと
  • 相続開始前または贈与時に、同族関係者と合わせて議決権の50%超を保有していたこと
  • 先代経営者と同族関係者の中で筆頭株主であったこと
  • 贈与の場合は、贈与時に代表者を退任していること

後継者の要件

  • 相続開始日の翌日から5ヶ月後までに、または贈与時に、会社の代表者となること
  • 同族関係者と合わせて議決権の50%超を保有することとなること
  • 同族関係者内で筆頭株主となること
  • 贈与の場合は、贈与時点で18歳以上かつ役員就任後3年以上経過していること

先代経営者が代表を退任する要件(贈与のみ)

実務でもっとも誤解が多いのが「先代経営者は会社を完全に去らなければならないのか」という点です。結論から整理すると、次のとおりです。

  • 贈与税の納税猶予:贈与の時までに、先代経営者が会社の代表権を有しないことが必要です(租税特別措置法第70条の7第2項)。贈与の日までに代表取締役を退任し、登記上も代表権のない状態にしておく必要があります。
  • 相続税の納税猶予:先代経営者の死亡により承継するため、退任要件はありません。相続開始の直前に代表者であった場合はもちろん、過去に代表者であった者からの相続でも要件を満たします(措置法第70条の7の2第2項)。

重要なのは、退任が求められるのは「代表権」であって、役員としての地位そのものではないという点です。贈与後も先代経営者が平取締役や会長として役員に残り、役員報酬を受け取ることは可能とされています(措置法通達70の7-11等)。ただし、代表権を制限した「代表取締役会長」のような肩書きでも、登記上の代表権が残っていれば要件を満たしません。定款・登記の実態で判断される点に注意してください。

また、贈与後に先代経営者が再び代表者に復帰した場合、猶予が打ち切られる事由に該当し得ます。承継後の役員構成は、税理士と事前にすり合わせておくことをおすすめします。

見落としやすい会社側の要件(事業実態要件)

会社の規模要件(中小企業者であること)は比較的わかりやすい一方、次の要件は見落とされがちです。

  • 常時使用従業員が1人以上いること(後継者と生計を一にする親族のみの会社は該当しません)
  • 直前の事業年度の総収入金額がゼロでないこと
  • 資産保有型会社・資産運用型会社に該当しないこと。ただし、常時使用従業員5人以上、事務所等の保有、3年以上の事業継続といった「事業実態要件」をすべて満たせば、除外規定により適用可能です
  • 黄金株(拒否権付種類株式)を後継者以外の者が保有していないこと。先代経営者が牽制目的で黄金株を持ち続けると要件違反になります
  • 資産保有型会社の判定は承継後も継続して行われ、事業を縮小して資産管理会社化すると猶予が打ち切られます

申請手続きの流れ

特例承継計画の提出(都道府県)

特例措置を利用する場合、認定経営革新等支援機関(税理士・金融機関等)の指導・助言を受けて作成した「特例承継計画」を、都道府県知事に提出します。計画には、後継者の氏名、事業承継の予定時期、承継後5年間の経営計画などを記載します。

相続発生・贈与

計画提出後、実際に相続または贈与が発生した時点で、認定要件を満たしているかを確認します。

都道府県の認定申請(相続開始から8ヶ月以内)

相続税の特例の場合、相続開始の日の翌日から8ヶ月以内に、都道府県知事に認定申請書を提出します。贈与税の場合は、贈与年の翌年1月15日までに申請します。

税務署への申告

相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに、認定書の写しを添付して税務署に申告します。納税猶予を受けるには、猶予税額に相当する担保(多くは対象株式そのもの)を提供する必要があります。

納税猶予の担保提供|非上場株式そのものを担保にできる

事業承継税制は「税金を免除する制度」ではなく「納税を猶予する制度」です。そのため、猶予される税額に見合う担保を税務署に提供することが適用の絶対条件となっています(租税特別措置法第70条の7の2第1項)。担保の提供がなければ、他の要件をすべて満たしていても納税猶予は受けられません。

提供する担保の額

提供すべき担保は、納税猶予税額および猶予期間中の利子税の額に相当する金額です。猶予税額そのものだけでなく、将来発生し得る利子税相当額まで含めて評価される点に注意が必要です。

担保として認められる財産(国税通則法第50条)

担保の種類は国税通則法第50条に列挙されており、事業承継税制でも同様です。

  • 国債・地方債
  • 税務署長が確実と認める社債その他の有価証券(納税猶予の対象となる非上場株式を含む
  • 土地
  • 建物、立木、船舶、機械等で保険に付したもの
  • 税務署長が確実と認める保証人の保証
  • 金銭

「みなし充足」|対象株式の全部を担保にすれば足りる

非上場株式を承継する後継者にとって、猶予税額に見合う不動産や現預金を別途用意するのは現実的ではありません。そこで事業承継税制には、納税猶予の対象となる非上場株式の全部を担保として提供した場合には、猶予税額に相当する担保が提供されたものとみなすという特例(いわゆる「みなし充足」)が設けられています(措置法第70条の7の2第6項・同第70条の7第6項)。

この特例の実務上のメリットは大きく、次の2点に整理できます。

  • 自社株以外の個人資産(自宅など)を担保に差し出す必要がない
  • 担保提供後に株価が下落しても、原則として増担保を求められないとされている(通常の担保であれば、価値の下落時に追加担保の提供を求められます)

ただし「全部」の提供が条件です。承継した株式の一部だけを担保にした場合はみなし充足の適用がなく、通常どおり猶予税額に見合う担保評価が必要になります。

担保提供の手続きと必要書類

担保提供関係書類は、相続税(贈与税)の申告書に添付して、申告期限までに税務署に提出します。申告期限を過ぎてからの提出は認められないため、認定申請と並行して準備を進める必要があります。

  • 担保提供書および担保財産の明細書
  • 株券発行会社の場合:株券を法務局に供託し、供託書の正本を提出します(税務署が質権者となります)
  • 株券不発行会社の場合:株券を発行しないまま、質権設定について会社が承諾したことを証する書面(承諾書等)を提出します。実務では、そもそも株券を発行していない会社が大半のため、こちらの手続きになるケースが多くなります
  • 会社の定款の写し、株主名簿の写し 等

株券発行会社の定めが残っている場合は、株券を実際に発行して供託するか、定款変更により株券不発行会社へ移行するかの判断が必要です。定款変更には株主総会の特別決議と登記が必要で、相応の期間を要します。相続開始後10ヶ月という申告期限を踏まえると、生前の段階で定款の建て付けを確認しておくことが望まれます。

納税猶予中の手続き(年次報告、5年経過後は3年ごと)

納税猶予を継続するには、申告期限後5年間(特例期間)は毎年、都道府県への「年次報告書」と税務署への「継続届出書」の提出が必要です。5年経過後は3年ごとに継続届出書を税務署に提出します。提出を怠ると猶予が打ち切られます。

猶予の打切り事由

以下の事由が発生すると、納税猶予が打ち切られ、利子税とともに猶予税額の全額を納付しなければなりません。

  • 後継者が代表者を退任(やむを得ない事由を除く)
  • 対象株式の譲渡・贈与
  • 会社の解散
  • 資産管理会社に該当(一定の事業実態要件を満たさない場合)
  • 継続届出書の提出懈怠
  • 同族関係者で過半数の議決権を保有しなくなった場合

猶予期間中の利子税|打切り時にいくら上乗せされるか

納税猶予が打ち切られた場合、猶予されていた税額に加えて利子税を納付しなければなりません。「利子税がいくらになるか読めない」という不安から制度の利用をためらう経営者は少なくありませんが、実際には現在の低金利下で大幅に軽減されています。

本則は年3.6%、実際は特例基準割合で軽減される

事業承継税制の利子税の本則税率は年3.6%です(租税特別措置法第70条の7の2第28項等)。ただし、租税特別措置法第93条により、各年の特例基準割合が年7.3%に満たない場合は、次の算式で軽減されます。

軽減後の利子税率 = 年3.6% × 特例基準割合 ÷ 7.3%(0.1%未満切捨て)

特例基準割合は各年の銀行の貸出約定平均金利をもとに毎年見直されます。令和7年(2025年)の特例基準割合は年0.9%とされており、これを当てはめると3.6% × 0.9% ÷ 7.3% = 年0.4%程度となります。あくまで当該年度を前提とした目安であり、金利上昇局面では税率も上がります。適用時点の実際の割合は、必ず国税庁の公表値または税理士にご確認ください。

経営承継期間(5年)経過後は、当初5年分の利子税が免除される

見落とされがちですが、非常に大きな効果を持つのが経営承継期間経過後の利子税免除です。申告期限の翌日から5年を経過する日(経営承継期間の末日)の翌日以後に猶予期限が確定した場合、経営承継期間(当初5年間)に対応する期間の利子税は免除されます

つまり、5年間の事業継続要件をきちんと満たしたうえで、その後に株式を譲渡するなどして猶予が打ち切られたとしても、利子税がかかるのは5年経過後の期間についてのみということです。逆に、5年以内に要件違反で打ち切られた場合は、猶予開始時点まで遡って全期間分の利子税が課されます。「最初の5年を乗り切れるか」が、税負担面でも決定的に重要になります。

利子税の計算例(概算)

ケース:猶予税額5,000万円、承継から8年後に株式を第三者へ譲渡して猶予が打ち切られた場合 経営承継期間(5年)を満了しているため、当初5年分の利子税は免除されます。利子税の対象となるのは5年経過後の3年間のみです。
5,000万円 × 年0.4%(令和7年度水準の目安) × 3年 = 約60万円
納付額の合計は、猶予税額5,000万円+利子税約60万円 = 約5,060万円となります。
仮に本則の年3.6%がそのまま適用され、かつ免除規定がなければ、5,000万円 × 3.6% × 8年 = 約1,440万円もの利子税が生じる計算になります。軽減と免除の効果がいかに大きいかがわかります。

※上記はイメージをつかんでいただくための概算例です。実際の利子税は日割りで、各年の特例基準割合を用いて期間ごとに計算されます。また、猶予税額の一部だけが確定する場合(一部譲渡等)は、その割合に応じた金額が計算の基礎となります。正確な金額は税理士による試算が必要です。

免除事由(後継者の死亡、次の後継者への贈与など)

以下の事由が発生すると、猶予税額が免除されます。

  • 後継者の死亡
  • 次の後継者への贈与(事業承継税制の適用を受けて)
  • 会社の破産・特別清算等
  • 同族関係者以外への株式譲渡(事業継続困難な事由がある場合の特例も)

メリット・デメリット

メリット:

  • 非上場株式の相続税・贈与税が最大100%猶予される(特例措置)
  • 事業承継時の納税資金の心配が大幅に軽減
  • 株式を売却せず後継者へ承継できる

デメリット:

  • 長期間の継続要件が厳しい
  • 要件違反時に利子税付きで全額納付の重いペナルティ
  • 計画策定・申請手続きが複雑(税理士等専門家の関与が必須)
  • 後継者の死亡など免除事由が発生するまで猶予が完全免除されない

当センターでの対応事例

事例:清瀬市Sさんのケース 清瀬市で製造業を営むS社(オーナー:Sさん70代)では、後継者である長男Tさんへの事業承継を検討。当センターでは認定経営革新等支援機関と連携して特例承継計画を策定し、都道府県への提出をサポート。Sさんが死亡した際、相続税の特例措置(100%納税猶予)を適用し、相続税の納税負担を一時的にゼロにしました。継続届出書の年次提出も継続的にサポートしています。

まとめ

事業承継税制(特例措置)は、中小企業の事業承継において非常に強力な制度ですが、適用期限が2027年12月31日までと限られており、要件も複雑です。早期の検討と準備が重要です。

事業承継税制の活用をご検討の方は、認定経営革新等支援機関と連携した専門家への相談が不可欠です。当センターでは無料相談を実施しておりますので、お気軽にご相談ください。

相続税の基礎控除生前贈与養子縁組と相続についても、あわせてご確認ください。当センターのサービス内容よくあるご質問もぜひご覧ください。

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※免責事項:本記事は2026年7月時点の法令等に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・税務アドバイスを行うものではありません。具体的なご相談は、専門家にお問い合わせください。

この記事の監修

株式会社 相続サポートセンター(みらいグループ)

税理士法人みらいを中心に、行政書士・社労士・不動産の専門家が連携。西東京市を拠点に、相続手続き・遺言書作成のワンストップサポートを提供しています。

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