生前対策2025年2月3日最終更新: 2025.02.03

高齢化が進む中、認知症への備えはますます重要になっています。認知症により判断能力が低下すると、不動産の売却や預金の引き出しが困難になり、資産が事実上凍結されてしまうケースが少なくありません。こうした問題を防ぐ有効な手段として注目されているのが「家族信託」です。本記事では、家族信託の仕組みや認知症対策としてのメリット、手続きの流れ、費用の目安について詳しく解説します。

家族信託の仕組み

家族信託とは、信頼できる家族に財産の管理・処分を託す仕組みです。信託法に基づく制度で、2006年の信託法改正により、より柔軟な活用が可能になりました。家族信託には3つの登場人物がいます。

委託者(いたくしゃ)

委託者は、自分の財産を信託する人です。たとえば、高齢の親が委託者となり、自宅やアパートなどの財産を信託します。委託者は信託契約によって、財産の管理方法や将来の処分方法を自分の意思で決めることができます。判断能力があるうちに信託契約を締結することが前提です。

受託者(じゅたくしゃ)

受託者は、委託者から財産の管理・処分を任される人です。一般的には、委託者の子どもなど信頼できる家族が受託者となります。受託者は、信託契約で定められた目的に従って財産を管理・処分する義務を負います。受託者は信託財産の名義人となりますが、財産の実質的な所有者ではなく、あくまで管理者としての立場です。

受益者(じゅえきしゃ)

受益者は、信託された財産から利益を受ける人です。認知症対策の場合、委託者本人が受益者となるのが一般的です。つまり、親が委託者兼受益者となり、子が受託者として財産を管理するという構図が最もよく見られるパターンです。これにより、親が認知症になった後も、子が親のために財産を管理・活用することができます。

認知症対策としてのメリット

家族信託が認知症対策として優れている理由は、いくつかのメリットにあります。

資産凍結の防止

認知症により判断能力が失われると、銀行口座からの引き出しが制限されたり、不動産の売却ができなくなったりします。家族信託を設定しておけば、受託者が信託財産を管理できるため、資産凍結を防ぐことができます。施設への入居費用や医療費の支払いなど、必要な支出に柔軟に対応することが可能です。

柔軟な財産管理

信託契約の内容は、委託者と受託者の合意により自由に設計できます。たとえば、自宅の売却条件を事前に定めておいたり、賃貸不動産の管理方針を決めておいたりすることが可能です。委託者の意思を反映した財産管理が実現できるのは、家族信託の大きな特長です。

二次相続以降の財産承継も指定可能

家族信託では、受益者が亡くなった後の次の受益者(二次受益者)を指定することができます。これは遺言ではできない仕組みで、「受益者連続信託」と呼ばれます。たとえば、最初の受益者を配偶者、次の受益者を子に設定することで、世代を超えた財産承継を計画的に行うことが可能です。

成年後見制度との違い

認知症対策のもう一つの手段として「成年後見制度」があります。家族信託と成年後見制度は、それぞれ異なる特徴を持っています。

開始のタイミング

家族信託は、委託者の判断能力があるうちに契約を締結します。一方、法定後見制度は判断能力が低下した後に利用する制度です。任意後見制度は事前に契約できますが、実際に効力が発生するのは判断能力が低下してからです。このため、早めの準備が必要な点は両制度に共通しています。

財産管理の柔軟性

成年後見制度では、後見人は被後見人の財産を「維持・保全」することが求められ、積極的な財産の運用や処分は原則として認められません。自宅の売却には家庭裁判所の許可が必要であり、手続きに時間がかかります。一方、家族信託では、信託契約で定めた範囲内であれば、不動産の売却や運用を柔軟に行うことができます。

費用面の違い

成年後見制度を利用する場合、専門職(弁護士や司法書士)が後見人に選任されると、毎月2万円から6万円程度の報酬が発生し、被後見人が亡くなるまで継続します。家族信託の場合は、初期費用(契約作成、登記など)はかかりますが、受託者が家族であれば管理報酬は不要であり、ランニングコストを抑えることができます。

身上監護の有無

成年後見制度では、後見人が被後見人の入院手続きや施設入所の契約など、身上監護に関する法律行為を行うことができます。家族信託には身上監護の機能はありません。そのため、身上監護が必要な場合は、家族信託と成年後見制度を併用することも検討されます。

家族信託の手続きの流れ

家族信託を設定するための一般的な手続きの流れは以下のとおりです。

1. 家族での話し合い

まず、家族間で信託の目的や対象となる財産、受託者の候補、管理方針などについて話し合います。家族全員の理解と協力が、家族信託を成功させる鍵となります。後々のトラブルを防ぐためにも、関係者全員が信託の内容を理解しておくことが重要です。

2. 専門家への相談・信託契約書の作成

司法書士や弁護士などの専門家に相談し、信託契約書を作成します。信託契約書には、信託の目的、信託財産の内容、受託者の権限と義務、信託の終了事由などを詳細に定めます。通常は公正証書で作成することが推奨されます。

3. 信託登記・信託口口座の開設

信託財産に不動産が含まれる場合は、信託登記を行います。また、金銭を信託する場合は、信託専用の口座(信託口口座)を開設し、信託財産を分別管理します。信託口口座は、受託者個人の財産とは明確に区別されるため、受託者に万が一のことがあっても信託財産は保護されます。

4. 信託の運用開始

手続きが完了したら、受託者による財産管理が始まります。受託者は信託契約に定められた方針に従い、委託者(兼受益者)のために財産を管理します。定期的に家族間で運用状況を共有し、必要に応じて対応を見直すことが大切です。

家族信託の費用の目安

家族信託にかかる費用は、信託する財産の内容や規模によって異なりますが、一般的な目安は以下のとおりです。

専門家への相談・コンサルティング費用として10万円から30万円程度、信託契約書の作成費用として10万円から20万円程度、公正証書作成の手数料として数万円から数十万円(財産額に応じて変動)、信託登記の費用として10万円から15万円程度(登録免許税は固定資産評価額の0.3%から0.4%)がかかります。

信託財産の規模が数千万円程度の場合、初期費用の総額は50万円から100万円程度が一般的です。これは一度きりの費用であり、成年後見制度のように毎月の報酬が発生しない点を考慮すると、長期的にはコストメリットがある場合も多いです。

家族信託を検討すべきケース

家族信託は特に以下のようなケースで有効です。高齢の親が賃貸不動産を所有していて将来の管理が心配な場合、自宅の売却資金で施設入所を検討しているが認知症になってからでは売却が困難な場合、障がいのある子の将来の生活のために財産を残したい場合などです。

ただし、家族信託はすべてのケースに適しているわけではありません。信頼できる受託者が家族内にいることが前提ですし、税務面での検討も必要です。生前贈与遺言書の作成と組み合わせることで、より効果的な相続対策が実現できます。

家族信託は比較的新しい制度であり、専門的な知識が必要です。相続手続きの流れ全体を把握したうえで、ご家族の状況に合った対策を選択しましょう。当センターでは、家族信託に関する無料相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

免責事項 本記事は2025年3月時点の法令等に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・税務アドバイスを行うものではありません。具体的なご相談は、専門家にお問い合わせください。
この記事の監修
株式会社 相続サポートセンター
税理士法人みらいを中心とした「みらいグループ」の一員。東京都西東京市に拠点を置き、相続手続き・遺言書作成支援・遺産整理業務を専門に、年間多数のご相談に対応しています。税理士・行政書士・社労士が連携し、税務・法務・労務をワンストップでサポートします。
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